レコードとCDの買取が少ないので、店舗やら、家で音楽を聴くことが多く、お客さんと音楽の話をすることも多くなります。
昨日、福岡の当店舗で、珍しくクラシックのCDをかけていました。
メンゲルベルク指揮のシューベルトの交響曲です。
戦前の録音でモノラルであり、音が重い。
プロのミュージシャンと録音談義
そこに来店されたのは、プロ・ミュージシャン歴50年のギタリストのお客様。
色々話していたところ、私が「皆指摘していないけどエルヴィス・プレスリーの『サスピシャス・マインド」は一人二重唱なんですよ」と言ってレコードをかけて、録音方法の話になり、そこで私の好きなフィル・スペクターの話になりました。
フィル・スペクターって何が凄い?
僕自身は、ぼんやり「ウォール・オブ・サウンド」は楽器やミュージシャンを増やして、音に厚みを出して、その後、オーヴァー・ダビングやらエコーを機材でいじくって作ってるものかと思ってました。
(間違ってはいない)
プロのミュージシャンの方は「これどうやって作ってるのかな?1発録音じゃないか?さっきの戦前のクラシックのオーケストラ録音と一緒で」。
「ただここまで音を篭らせる方法はスペクターにしかない何かテクニックを持ってるんじゃないか」。
プロの耳はさすがです。
「ウォール・オブ・サウンド」
スペクターは1発録音で、楽器の数をとにかく増やし、微妙に音を変えて、一斉に鳴らすとエコーが生じ、それをギターやベースだけでなく、ピアノ、ドラムまでエコーをかけるよう、マイクの位置を考えたりしていたのです。
使用していたスタジオ「ゴールド・スター」のエコー・チェンバーを大変気に入り、ネットの文章を引用させていただきますが(注釈)エンジニアのラリー・レヴィン曰く「ウォール・オブ・サウンドとは小さな部屋で多人数が同時演奏する時の空気振動の圧力だ」と。
これも引用ですが「そのままスタジオのコントロール・ルームで聴いた興奮を保つ為に、ゴールド・スターのオーナーであるスタン・ロスはその場でカッティングマシーンを動かし、シングル盤をカットし、それをラジオ局で直ちにオンエアーしてもらう」。
あと、モノラル録音に拘ったのは、さらにロックンロールの音の歪みが増すだろうし、ストレートにモノラル一本で撮ることで、音の塊がより強固になる。
それとドラムのパートは最後に加えていったと。
ドラムのハル・ブレインのみは自由に叩くことを許され、これはフィルが愛するロックンロールやR&Bの醍醐味であるリズムに最も重きを置いてるからこそではないか。
もちろん、これに加えオーヴァー・ダビングなども行なっていただろうし。
とにかく自分の理想の音への尋常な拘りに一切妥協を許さず、色々な試みをやった結果、様々なアイディアを思いつき、完成したものが「ウォール・オブ・サウンド」である。
「音の壁」を突き破る歌い手たち
いや、完成ではない。
この音の壁と対等に戦えるパワフルなボーカリストが必要であり、それがロニー・スペクター、ライチャス・ブラザーズ、ティナ・ターナーだったのでしょう。
ボーカル・トラックは別に録っていたのでしょうか?
「ティナがスタジオでフィルとラリー以外誰もいない中、ヘッドホンをかぶり、膨大なリズム・トラックを耳に詰め込みながら、真っ暗闇の中、汗でブラウスを着ていられなくなり、ブラジャー一枚となり、真夜中まで歌った」(スペクター自伝抜粋)。
このようにして「ウォール・オブ・サウンド」は完成に至ったのです。
ティーンエイジ・シンフォニー
さて、店舗ではフィル・スペクターの代表作であるアイク&ティナ・ターナーの「リバー・ディープ・マウンテン・ハイ」を聞きました。
「これはもうオーケストラだね」と唸るお客さん。
フィルはワーグナーを好み「ティーンエイジ・シンフォニー」と呼ばれる所を目指していたとか。
二人は呆然と「音の壁」の大音量に佇んでしまいました。
注釈:「Sonic Bang」某レコード会社で洋楽ポピュラーを担当していた、たかお様のブログです。
ロック全般、ジャズ、ブルース、ソウル、ワールド・ミュージックなど、レコード、CD、福岡、出張買取、持ち込み・店頭買取、日本全国、宅配買取致します。
福岡の中古レコード屋「アッサンブラージュ」。